仲間と共に、考えを広げ深め、自ら課題を解決していく子どもの育成
~対話的な活動の工夫を通して~ |
1.主題設定の理由(省略します)
2.主題の意味
(1)「仲間と共に、考えを広げ深め」とは
仲間と一緒に、自分の考えを言語や文字、絵図等で表現し、よりよい考えへと深化させていくことである。 |
本校の教育目標「人間性豊かで、仲間と共にたくましく生き抜く子どもの育成」に到達するためには、教材や事象から自分の考えをもち、自分だけで物事を整理したり考えたりするのではなく、仲間と関わりながら仲間と自分の思いや考えを伝え合い、よりよい考えをつくる必要があると考える。
(2)「仲間と共に、考えを広げ深め、自ら課題を解決していく子ども」とは
「課題」とは、ある事象に対して、解決しなければならない内容のことである。その課題を解決するために、見通しをもち、考えたことを伝え合い、さらに考えを深化させることができる子どものことである。 |
まずは自己の課題を明確につかませることが重要である。自分の課題を明確にすることで、その解決方法を自分や仲間と取捨選択しながら自分にとって必要な考えを身に付けようとする主体的な学びになると考える。ここでは、自分の課題を解決したいという願いが強ければ強いほど意欲が高まる。これを繰り返すことで、めざす姿へ近づく喜びや課題を解決する過程の楽しさを味わったり、課題解決への達成感を実感したりすることができると考える。それは、「人間性豊かで、仲間と共にたくましく生き抜く子どもの育成」へとつながっていく。
3.副主題の意味
(1)「対話」とは
交流の目的や方法を共有し、交流を通して考えを自己決定している話し合いのことである。 |
交流の目的、話合いの方法を共有し、自分の考えを自己決定することができる「話し合い」を「対話」としてとらえる。
つまり、「対話」を活発にするには、「何を話し合うのか」「なぜ話し合うのか」「どこまで話し合うのか」「どんな方法で話し合うのか」を明確にする必要がある。
(2)「対話的活動」とは
「全員がわかる、できる、納得できる」ことを目標に、他者の考え方を手がかりにしながら「対話」することを通して、自らの考えを広げたり深めたりする活動である。 |
子どもたちは「分かりたい」「できるようになりたい」という思いをもっている。その思いを大切にするために、他者と考えを交流し、考えを自己決定する対話的な活動を一単位時間の中に位置づける。目的や方法を明確にして、形態等を工夫した対話的な活動を積み上げることが、子どもたちの「分かりたい」「できるようになりたい」という思いの達成につながると考える。
(3)「対話的活動の工夫」とは
子どもたちのどのような姿を到達目標(目標)とするのか、そして、それに向けた学びをどのように評価していくか(評価)を子どもと教師が共有した上で、課題解決に適した対話的な活動の形態を意図的に仕組んだり、子どもの学びの姿を可視化したりすること(学習)で、全ての子どもたちが友だちと関わりながら積極的に課題解決に取り組む授業づくりを行うことである。 |
対話的な活動の工夫とは、単に形態の工夫にとどまらない。子どもたちが主体的に対話的な活動に取り組むためには、まず学習の目標が明確である必要がある。今日の学習で何を学ぶのか、今日の学習では何ができるようになればいいのを子どもたち一人ひとりがしっかりと捉えていなければ、どのような形態の対話的な活動を仕組もうとも活性化させることはできない。
また、その目標は評価と結びついている必要がある。目標が達成できたかどうかをいつ・どんな方法や内容で評価するかを子どもと教師が共有した上で、対話的な活動に取り組ませる必要がある。
主体的に活動に取り組ませるためには、子どもたちに裁量を与えなければならない。目標達成のために、誰とどのように対話的な活動を行うのか、もしくは行わないのかについて考えて、決定していく裁量は子どもたちにある。子どもたちが裁量を持つと、一人で解決しようとする子ども、友だちと協力して解決しようとする子どもなど一人ひとりの学習の様相には違いが表れる。ただ、一人ひとりが違うことをしていても達成される目標は共有されているため、全員が「わかる、できる」ためには、お互いの状況を確認したり、考えをすりあわせたりすることとなり、対話的な活動が生まれるのである。そのために、教師は、子どもたちの学びの様子を見取り、学習状況や学習情報・学習内容を可視化しながら、子どもたちの考えをつないでいく。
つまり、対話的な活動の工夫とは、「目標と学習と評価の一体化」であり、その主体は子どもである。
4.研究の目標
対話的な活動の工夫を通して、仲間と共に、考えを広げ深め、自ら課題を解決していく子どもを育てる指導の在り方を究明する。 |
5.研究の仮説
対話的な活動において、以下の工夫を行えば、仲間と共に、考えを広げ深め、自ら課題を解決していく子どもが育つであろう。
(1)「めあて」づくりにおいて、課題意識をもたせる手だての工夫 *子どもに課題意識をもたせる問題提示の工夫【手立て①】 *評価の視点を踏まえた「めあて」の設定【手だて②】
(2)対話的な活動を旺盛にする手だての工夫 *目的に応じた対話的な活動の設定【手立て③】 *学習状況・学習内容・学習情報を可視化する手立ての位置づけ【手立て④】 *思考をつなぐ学び方の積み上げ【手立て⑤】
(3)「全員がわかった、できた、納得できた」と実感をもたせる工夫 *児童の実態に応じた評価の実施【手立て⑥】 |
6.研究の構想
(1) 「めあて」づくりにおいて、課題意識をもたせる手だての工夫
① 子どもに課題意識をもたせる問題提示の工夫【手立て①】
一単位時間の導入の段階に、問題提示の工夫を行うことで、「こうしたらできそうだ」「やってみたい」
「考えてみたい」と課題意識をもたせることができると考える。
具体的には、以下のようなことが問題提示の工夫と考える。
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*前時と本時の学習内容を比較させることで、学習内容のズレを感じさせる。 *教師が誤答を提示することで、解決の見通しをもたせる。 *解答を複数提示することで、答えを確かめたいという思いを高めさせる。 *「易しい数値の問題」から「難しい数値の問題」のように段階をおって問題を 提示することで、解決の見通しをもたせる。 *具体物を用い、問題場面のイメージを具体的に捉えさせることで、解決の見通し をもたせる。 |
② 評価の視点を踏まえためあての設定【手立て②】
「ねらい」や「めあて」は、「子どもたちがその時間で達成するべき内容」と捉えることができる。
それを整理すると次のようになる。
*「ねらい」…授業者が本時の目標として設定するもの。
*「めあて」…その時間で子どもが達成すべき目標を直接子どもたちに提示するもの。 |
「めあて」は、「ねらい」が達成されるように立てられる。本校では、全員がめあてが達成することをめざすため、特に、子どもに提示する「めあて」は、子どもたちが「できたか」「できなかったか」を振り返ることができる「めあて」にすることが必要である。
さて、めあてであるが、本校では、昨年度までは以下のようなめあてが多く見られた(ただし、学習の手段や方法は必ずしも「めあて」にふくめなくてもよいことにしていた)。
( )用いて ( )通して |
( )を ( )について |
調べよう。 考えよう。 |
学習の手段や方法 学習の目的 子どもの活動
しかし、「~を調べよう」「~について考えよう」では、「できたか」「できなかったのか」がはっきりしない。例えば、「整数-小数の筆算ができるようになる」等の「めあて」も考えられるが、計算の仕方を理解できているかどうかを確かめるには、それを説明させることが有効であることを考えると、「整数-小数の筆算の仕方が説明できるようになろう」の方がより適切な「めあて」だと言える。このように、子どもの発達段階に応じて、振り返りの段階で、教師も子どもも達成できたかどうかを評価できる「めあて」を立てることが重要である。そのためには、アウトプット型のめあて(「~を説明することができる」「~を書くことができる」「~を作図することができる」等)の有効だと考える。
(2) 対話的な活動を旺盛にする手だての工夫
① 目的に応じた対話的な活動の設定【手立て③】
本校では、対話的な活動の形態として、大きく3つを考えている。一つは、ペア、二つがグループ、三つがフリートークである。それぞれの形態の長所と短所を整理すると以下のようになる。
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長所 |
短所 |
ペア |
* 説明する相手を選択する必要がない。 * かならず聞いてもらえる友だちがいる。 * 友だちのコメントを理解しやすい。 * 自分の考え方の確認ができる。 * 1対1の助言をもらい、自分の補足ができる。 * 他者評価を確実にしてもらえる。 |
* 多様な考えにふれることができない。 * 自分の考えに確証が持てない。 * まちがっていても修正できない。 * 課題クリアの方法が広がらない。 * 学習への責任がもちにくい。
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グループ |
* 説明する相手を選択する必要がない。 * かならず聞いてもらえる友だちがいる。 * 複数で自分の考え方の確認ができる。 * 複数の人の考えを集約できる。 * 他者評価を確実にしてもらえる。 |
* グループ以外の考えにふれることができない。 * 自分の考えに確証が持てない。 * まちがっていても修正できない。 * 課題クリアの方法が広がらない。 |
フリートーク |
* 関わる友だちを自由に選択できる。 * 自分のペースで学ぶことができ、自分の考えを表現しやすい。 * 複数で自分の考え方の確認ができる。 * 他者評価を確実にしてもらえる。 * 必要とする情報を得る可能性が広がる。 |
* 特定の友だちに偏る可能性がある。 * 自力解決にこだわる子どもは、関わる機会が少なくなる。
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初歩的な段階では、ペアによる対話的な活動は有効な形態である。特に、低学年において、対話をする相手を選択する必要がないため、子どもたちにとっては関わりやすい。ただ、説明を促すような課題の場合は、間違った答えを交流する場面も見られる。また、「全員ができるようになる」という意識は育ちにくい。グループによる対話的な活動では、ペアに比べ、相互交流が活性化しやすい。ただ、グループになると、どうしてもリーダーが出現しがちになる。そのリーダーに任せきりになり、グループ内の役割が固定化してくると、グループでの活動がうまく機能しなくなる恐れがある。また、「グループ全員ができるようになる」という意識はもつものの、ペア同様「全員ができるようになる」という意識はもちにくい。それに対し、「めあて」や「課題」がはっきりしていれば、フリートークによる学習効果は高まると考える。フリートークをより有効なものにするためには、子どもたちがそれぞれの状況に応じて最適と考えた活動を選択できる自由と権利を保障することが大切である。
② 学習状況・学習内容・学習情報を可視化する手立ての位置づけ【手立て④】
対話的な活動を学習の中核に位置づけ、子どもたちの活動に任せる時間を多くすると、子どもたちは、右図のような動きをとることが予想される。自分の考えをつくれない子どもや友だちになかなか尋ねられない子どもも考えられる。「みんなができるようになる」ためには、それが子どもたちに分かるようにしなければならない、そこで、教師の可視化の工夫が大切となる。
「可視化」とは、「見えるようにすること、分かるようにすること」であり、子どもたちが有益な情報を得るためには不可欠である。自力解決にこだわる子どもであっても、友だちとの解決を望む子どもにとっても、課題解決のために必要な情報は手に入れたいものである。したがって、この可視化がうまくいかなければ、課題解決ができずに授業時間が終わってしまうことも考えられる。本校では、「可視化」を、以下の3つとして捉えている。
ア 子どもの学びの進捗状況を明らかにする学習状況の可視化 イ 子どもの解決内容・解決方法を明らかにする学習内容の可視化 ウ 子どもの学ぶ姿を称賛したり、必要な情報の在処を示したり、 考え方のヒントになること等を発信したりする学習情報の可視化 |
アについては、課題解決ができた子どもがネームプレートをはることで、誰ができていて、誰ができていないかを全員が把握することができるようにする。これにより、学習につまずいている子どもは、尋ねる相手を自由に選択できるし、課題解決ができた子どもは「全員ができるようになる」ために積極的に友だちに関わる状況をつくり出すことができる。ネームプレートについては、「移動する」「裏返す」等の方法も考えられる。ネームプレートだけでなく、「サンキュ―サイン」「たすけてくださいカード」などを使った可視化、達成段階のみでなく赤白帽子や色カードを使って子どもの納得ぐあい(理解度)の可視化をすることも可能である。学年の実態や発達段階に応じて更なる可視化の方法を工夫したい。
イについては、ホワイトボードや絵図等に自分の考えを書き、友だちの考えと比べて、確認したり、質問したり、自由に意見を述べたりすることで、自分の考えを広げたり、深めたりすることができるようにする。そのようにして獲得した数理などを「今日のポイント」として共有化したい。
ウについては、子どもの対話的な活動の中から、課題に直結するような学び方をしているグループの様子を他のグループに伝えるようにすると有効であると考える。例えば、「よくできているねえ」という言葉で、周りの子どもたちはその良さを知りたいと思うようになり、そこで新たな対話的な活動が生まれる。全てを子ども任せにするのではなく、子どもにとって必要な情報や子どもが考えを深めるヒントになるようなことを教師が積極的に可視化し、情報提供を行うことが重要である。対話的な活動が停滞した場合は、学習を中断し、意識の再認識を行う必要もある。
④ 思考をつなぐ学び方の積み上げ【手立て⑤】
他者との交流の中で、「なんで」や「どうして」などの言葉を使うことで、
さらに考えを深化させていくことができる。
そこで、日頃から思考をつなぐ学び方の積み上げを行っていく。
具体的には、以下のような学び方を積み上げていく。
思考を深化させる言葉 … なんで、どうして、どういうこと
思考をつなぐ言葉 … それに、しかも、まとめると、それって~だよね 思考を比べる言葉 … でも |
(3)「全員がわかった、できた、納得できた」と実感をもたせる工夫
① 児童の実態に応じた評価の実施【手立て⑥】
一単位時間ごとに評価の場面を位置づける。その際に、自分自身の成長を実感させるために練習問題に取り組ませたり、他者との関わりや本時の学習内容等を文章で振り返らせたりと、ねらいによって方法を工夫することが大切である。
具体的には、以下のようなことを評価と考える。
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